第1回法律コラム【M&Aにおけるスキーム選択の留意点】 顧問弁護士執筆

2017年2月10日

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総合

桜川綜合法律事務所 弁護士 石田周平

飲食店の経営者[1]の方が、M&A(企業の合併・買収の総称。現経営者の方からすると、経営している「会社の売却」ということになります。)を検討される理由は、承継者の不在、健康的な問題、選択と集中のため、会社の経営が傾いてきたためやむを得ず、といったように、様々な理由があろうかと思います。

 

「会社の売却」という以上、買主を探す必要がありますが、買主となる相手方を探すに際して、飲食店の経営者の方が、まず考えなければいけないのが、どのような形で会社の売却をするか、いわゆる「スキーム」選択の問題です。

 

M&Aを実行する際、一般的に用いられるスキームとしては、①株式譲渡(既発行の株式の全部又は一部を買主に譲渡する方法)、②募集株式発行(新たに株式を発行し、当該株式を買主に引き受けてもらう方法)、③事業譲渡、④合併(吸収合併・新設合併)、⑤会社分割(吸収分割・新設分割)、⑥株式交換・株式移転といった方式があり、また、M&Aというかどうかはさておき、飲食業界においては、いわゆる「居抜き物件」として、事業を伴わない形で、店舗資産のみを譲渡する方法もよく用いられます(また、これらの方法を組み合わせることもあります。)。

 

これらのスキームは、それぞれに必要となる手続、期間、効果、税制等が異なっており、飲食店の経営者の方は、会社の売却により達成したい目的、ご自身で経営されている会社が置かれている状況、各スキームを実行するために必要となる手続、期間、効果、税制等を踏まえ、上記スキームの中から、最適なスキームを選択することが必要となってきます。

 

法務の観点から一例をあげさせていただくと、例えば、ご自身で経営されている会社に、A・Bという業態の飲食店があり、A業態の飲食店を売却し、B業態に経営資源を集中させたいというケースでは、会社という法人格をそのまま売却することになる株式譲渡スキームを取ることはせず、一部事業の切り出しが可能な事業譲渡、会社分割スキームを選択することが多いと思います。

 

また、事業譲渡の場合、譲渡会社側でとるべき手続は、原則として取締役会(取締役会設置会社の場合)及び株主総会の承認のみで足り、比較的短期間で実行することができる一方、その効果は個別承継のため、契約の相手方の同意を取得する必要があります。

これに対し、会社分割の場合、譲渡会社側でとるべき手続は、取締役会(取締役会設置会社の場合)及び株主総会の承認のほか、法定書面の事前備置、労働者承継手続、債権者保護手続、反対株主買取請求手続への対応、法定書面の事後備置、登記等の手続が必要となり、実行のために必要となる期間も事業譲渡に比べて長期化することが多い一方、その効果は包括承継のため、契約の相手方の同意は原則として不要となります。

 

そのため、契約の相手方が少なく、同意取得の手間がそこまでかからないケースでは、手続きが簡便な事業譲渡が用いられやすい一方、契約の相手方が多数いるようなケースでは、同意取得の手間を省くため、会社分割を用いられやすいかと思います。

 

以上は、法務の観点からのアドバイスであり、さらに税制や買主の見つけやすさ等の観点も踏まえ、具体的なスキームを決めていくことが必要となります。

 

この点、最近は、M&Aのスキームごとの比較をしている専門家のホームページなどもあり、会社を売却しようとされている飲食店の経営者の方が、情報を集めやすい状況となっており、これは非常にいいことかと思います。

 

ただ、ホームページという性質上、同ページに記載されている内容は、みなさんにあてはまる一般論を記載しているものが多く(本コラムもその範囲を超えるものではありませんが。)、その一方で、会社の売却をする目的や会社が置かれている状況は、経営者の方、会社ごとに異なりますので、取るべきスキームは、ケースバイケースと言わざるを得ません。

 

そのため、実際にご自身の会社の売却を進めるに際しては、後々「こんなはずではなかった。」と後悔することがないよう、経験豊富なフィナンシャルアドバイザー、会計士、税理士、弁護士等の専門家の意見を聞いた上で、スキームを選択することをお勧め致します。

 

以上

[1]  会社の支配権を有する株主と経営者が分かれているケースもありますが、本コラムでは、会社の支配権を有しており、かつ会社の経営者でもある方を「経営者」として、話を進めさせていただきます。

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