第3回会計税務コラム 【~売り手サイドの心構え2/3~】 公認会計士 水谷是繁

2017年6月22日

タグ:
売手

第3回会計税務コラム

【~売り手サイドの心構え2/3~】

公認会計士 水谷是繁

前回のコラムでは『情報の非対称性』という概念を使って、できるだけ正しい情報を買い手サイドに伝える方が売却金額の向上を見込めるというお話をしました。

前回の「決算内容を精査する」という内容は、どちらかというと直前の決算での対応についての考え方でしたが、今回は中期的に考えておかなければならないポイントについてお話ししたいと思います。

 

2.財務内容を健全化する

飲食店が儲かっているかどうかは実際に店舗で飲食してみても判断できません。第三者である買い手は、買い取るかどうかの判断の大きな部分を会計数値から読み取ります。

会計数値は『貸借対照表(BS)』と『損益計算書(PL)』に集約され、基本的にはこれらの財務諸表から数字的判断をすることとなります。

すでに会社や店舗をお持ちの経営者の読者様であれば普段から慣れ親しんでいる書類かとは思いますが、『貸借対照表(BS)』からは会社の財務内容が、『損益計算書(PL)』からは会社の業績が分かります。

実際は順調な会社でも、役員報酬を高めに設定していたり、保険に多く入っていたり、事業に直接関連しない車両を計上していたり、社宅扱いをしていたり、店舗運営自体には直接必要としない交際費を多く計上していたり・・、といった節税対策を行っている結果、財務諸表が悪印象の会社も多く見受けられます。

M&Aにおける価格交渉は、実務上、BSの純資産を基準にスタートすることも多いですので、財務内容の健全化は売却価格の向上に直結します。

財務内容の健全化には時間とテクニックを要しますので、会社売却に舵を切ることを決断したタイミングで早めに顧問税理士や公認会計士に相談するといったアクションを起こすことが望まれます。

 

3.取引内容を整理する

会社によっては様々な理由によって、店舗運営に必要な通常の取引サイクル以外の取引が存在することも多く見受けられます。

例えば、「グループ会社との業務委託契約」や「経営者が保有する不動産の事務所契約」、「親族関係者との雇用契約」などといった第三者以外との取引については事前に整理しておくことが望ましいと言えます。(こうした整理は2.でお話しした財務健全化にも良い影響を与えます。)

その他にもよくあるケースとして、開店当初に信用がなかったので店舗の賃貸借契約ができず、やむを得ずほかの会社名義で転貸となっている事例がありますが、こうしたケースでも家主と交渉して直接契約の交渉を行っておくべきでしょう。

また、この機会に使用していない口座を閉鎖したり、引落口座を統一したりといった預金口座の整理や、仕入先の統合・再検討・再交渉、カード決済会社の統合・再検討・再交渉、従業員との雇用契約・就業規則の明確化なども行っておくとよいでしょう。

なお、金融機関からの借入がある場合には、経営者の連帯保証が入っていることも多いと思います。この点についても今後はガイドラインの制定や法改正などを受けて、個人保証を外せるように金融機関と交渉していくことが重要です。(この点は話せば長くなるので、別の機会に本コラムでお伝えできればと思いますが、金融機関側のスコアリングを踏まえて2.でお伝えした財務健全化と合わせて進めていく必要があります。)

 

こうして見ていくと、売り手がすべきことが多いと感じられると思いますが、売却金額の向上のためだけでなく、この機会に会社の取引関係やルールなどの見直しを行うことは店舗経営上も有益ですので、是非積極的に取り組んでいただきたいと思います。