第3回法律コラム 【事業譲渡スキームについて(上)】 桜川綜合法律事務所 弁護士 石田周平

2017年7月06日

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総合

第3回法律コラム

【事業譲渡スキームについて(上)】

桜川綜合法律事務所 弁護士 石田周平

1.はじめに

中小企業のM&Aにおいては、株式譲渡スキームと並んで、事業譲渡スキームも比較的よく用いられています。

ただし、事業譲渡スキームは、株式譲渡と比較して手続が若干煩雑であり、また、留意すべき点も数多く存在します。

そこで、今回のコラムから、3回に分けて、「2 事業譲渡の概要」「3 事業譲渡の手続」について(第3回法律コラム)、「4 株主総会での特別決議等が必要となる事業譲渡」「5 事業譲渡のメリット・デメリット」について(第4回法律コラム)、「6 事業譲渡の留意点」について(第5回法律コラム)、それぞれご説明をしていきたいと思います。

2.事業譲渡の概要

(1)事業譲渡とは

事業譲渡に関する規律を定めているのは会社法という法律です。ただ、会社法は、事業譲渡をする場合の手続(会社法467条~470条。以下特に断りが無い限り、条数番号は会社法の規定を指すものとします。)や、事業譲渡をした場合の競業禁止等(21条~24条)について規定を設けていますが、事業譲渡とはどういう行為なのか、という点に対する答えを規定しておりません。

そのため、事業譲渡とはどういう行為なのか、という点については解釈によることになりますが、一般的には「株式会社が事業を取引行為(特定承継)として他に譲渡する行為」[1]をいうと解されております。

(2)他のM&Aスキームとの比較

事業譲渡は、法人格そのものではなく「事業」を譲渡の対象としている点で、株式譲渡とは区別され、また、会社法が規定する組織法上の行為ではなく「取引行為(特定承継)」である点で、会社法上の組織行為である合併・会社分割等とは区別されます。

このほか、「事業」の譲渡であるとの点で、単なる店舗用資産の譲渡とは区別されます(そのため、飲食業界でよく行われている居抜きでの資産譲渡は、「事業」譲渡にはあたらないということになります。)。

3.事業譲渡の手続

(1)譲渡会社の手続

事業譲渡を行おうとした場合、譲渡会社では、以下の手続が必要となります。

①取締役会での承認

事業譲渡には、重要な資産の処分(362条4項1号)も含まれていることが通常ですので、譲渡会社が取締役会設置会社の場合は、取締役会での決議が必要となります(取締役会非設置会社の場合は、代表取締役の決定があればオッケーです。)。

②株主総会での承認

また、譲渡対象が譲渡会社の全部の事業の場合、または、重要な一部の事業の場合には、株主総会の特別決議が必要となります[2](467条1項1号、2号)。

ただし、(ア)譲渡会社の全部の事業の場合、または、重要な一部の譲渡の場合であっても、譲受会社が、譲渡会社の支配権を90%以上有しているケースでは、譲渡会社で株主総会をやっても、承認されることが明らかですので、株主総会での特別決議は不要とされています(468条1項。略式事業譲渡。)。

また、(イ)譲渡会社の重要な一部の譲渡の場合であっても、譲渡対象資産の帳簿価格が、譲渡会社の総資産の20%を超えないケースについては、譲渡会社に与える影響が大きくないことから、株主総会での特別決議は不要とされています(467条1項2号かっこ書。簡易事業譲渡。)。

③反対株主からの株式買取請求対応

このほか、事業譲渡に反対の株主は、譲渡会社に対して、自己の有する株式を、公正な価格で買い取るよう請求できるとされており(469条1項)、譲渡会社は株主から同請求を受けたら、公正な価格について当該株主と協議の上で、協議が整った場合にはその価格で、買取を行う必要があります[3](470条1項)。

また、譲渡会社は、株式買取請求権を行使する機会を確保させるべく、事業譲渡の効力発生日の20日前までに、株主に対して、事業譲渡を行う旨を通知する必要があります[4](469条3項)。

(2)譲受会社の手続

一方で、事業譲渡を受けようとする会社では、以下の手続が必要となります。

①取締役会での承認

事業譲渡には、重要な資産の譲受(362条4項1号)も含まれていることが通常ですので、譲受会社が取締役会設置会社の場合は、取締役会での決議が必要となります(取締役会非設置会社の場合は、代表取締役の決定でオッケーです。)。

②株主総会での承認

また、譲渡対象が譲渡会社の全部の事業の場合には、株主総会の特別決議が必要となります[5](467条1項3号)。

ただし、譲渡対象が譲渡会社の全部の事業の場合であっても、(ア)譲渡会社が、譲受会社の支配権を90%以上有しているケースでは、譲受会社で株主総会をやっても、当然承認されることが明らかですので、株主総会での特別決議は不要とされています(468条1項。略式事業全部の譲受。)。

また、(イ)譲渡会社の全部の事業の対価が、譲受会社の純資産の20%を超えないケースについては、譲受会社に与える影響が大きくないことから、株主総会での特別決議は不要とされています(468条2項。簡易な事業全部の譲受。)

③反対株主からの株式買取請求対応

譲渡会社と同様ですので、(2)③を参照してください。

 

第4回法律コラム【事業譲渡スキームについて(中)】に続く

[1]  江頭憲次郎「株式会社法(第6版)」948頁

[2] 譲渡対象が重要でない一部の譲渡の場合には、譲渡会社の株主総会での特別決議は不要ということになります。この点、重要性については、量的側面と質的側面の2つの基準で判断すると解されていますが、実際上は重要性の判断は微妙なケースもあり、そのような場合は、後日の紛争を防止するために、重要性ありとして株主総会を開催することが多いかと思います。

[3] 協議が整わない場合、株主若しくは譲渡会社からの申立てにより、裁判所が公正な価格を決定することになります(470条2項~)。

[4] 例外的に公告で足りるケースもあります(469条4項)。

[5] 譲渡対象が譲渡会社の一部の譲渡の場合は、譲受会社の株主総会での特別決議は不要ということになりますが、一部の資産や負債を譲渡対象から除外しても、当然に事業の全部の譲受でなくなる訳ではないと考えられているとの点には注意が必要です。

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