第4回法律コラム 【事業譲渡スキームについて(中)】 桜川綜合法律事務所 弁護士 石田周平

2017年7月07日

タグ:
総合

第4回法律コラム 【事業譲渡スキームについて(中)】 桜川綜合法律事務所 弁護士 石田周平

 

承前

4 株主総会での特別決議等が必要となる事業譲渡
(1) 事業譲渡を行う際に必要となる手続は「3 事業譲渡の手続」(第3回法律コラム)記載のとおりですが、全ての事業譲渡において、株主総会での特別決議・反対株主からの株式買取請求対応(以下「株主総会での特別決議等」といいます。)が必要となる訳ではありません。

(2) この点、最高裁判所は、株主総会での特別決議等が必要となる事業譲渡について、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ、法律上当然に同法(※今の会社法でいうと21条)に定める競業避止義務を負う結果を伴うもの」(最判昭和40年9月22日)と判示しており、この最高裁判所の考え方に従うと、株主総会での特別決議等が必要となる事業譲渡の範囲は相当程度限定されることになります。

(3) ただ、この最高裁の考え方だと、株主総会での特別決議等が必要となる事業譲渡の範囲が狭すぎ、株主の保護に欠けるとして、学説では、株主総会での特別決議等が必要となる事業譲渡の範囲をもう少し緩く解釈する見解が有力です。

(4) この点、株主が一人しかおらず、かつ、同人が代表取締役も兼ねているケースでは、経営陣と株主の意向が異ならないため、今から実行しようとしている事業譲渡が、株主総会での特別決議が必要な事業譲渡なのか否か、が問題とはなりにくいものの、第三者株主がいるようなケースでは、今から実行しようとしている事業譲渡が、株主総会での特別決議が必要な事業譲渡なのか否か、が問題となってきます 。
ですので、第三者株主がいるようなケースでは、これから行おうとしている事業譲渡が、株主総会での特別決議が必要な事業譲渡なのか否か、をよくよく見定める必要がありますので、注意が必要です(判断に悩むようなケースでは、保守的に見て、株主総会を行うという判断もあるかと思いますが、専門家の意見を聞くのが一番です。)。

※1 本来株主総会の特別決議が必要であるにもかかわらず、株主総会決議を経ずに事業譲渡を実行した場合、当該事業譲渡は無効と解されており、株主等から事業譲渡の無効を主張された場合、トラブルとなる可能性は否定できません。

 

5 事業譲渡のメリット・デメリット
(1) 事業譲渡のメリット
① 譲渡対象を選別可能
株式譲渡の場合、譲渡対象は法人格そのものですので、会社の一部のみを切り出して譲渡をすることは出来ません(合併も同じように一部のみの譲渡は出来ません。)が、事業譲渡の場合、譲渡したい資産・負債のみを選別して譲渡することが可能です(会社分割も同様のメリットあり。)。
② 簿外債務の遮断
譲渡対象の資産・負債を選別できますので、簿外債務を譲受会社に承継させないことが可能です。
③ 会社分割に比べれば、手続は簡便
会社分割等の組織再編行為の場合に必要となる、事前・事後書面の備え置き、債権者保護手続、登記手続、労働者保護手続(会社分割の場合のみ必要。)は不要です。

(2) 事業譲渡のデメリット
① 個別承継のため、契約の相手方の同意が必要
事業譲渡は個別承継であり、契約を譲受会社に承継させるためには、相手方の同意が必要です。そのため、事業譲渡契約締結時点では、契約を承継できるかどうかわからず、安定性を欠く側面は否定できません。
② 対抗要件は再度取り直す必要あり
譲渡対象資産に不動産等が含まれている場合、対抗要件(不動産の場合は登記)を具備する必要があり、そのための費用が発生することもあります。
③ 許認可の承継はなし
事業譲渡の場合、飲食業許可の承継はされませんので、譲受会社側で、許可を取り直す必要があります。
④ 株式譲渡に比べれば手続は煩雑
株式譲渡の場合は、会社法上の手続規制は、譲渡制限がある場合の承認くらいですが、事業譲渡の場合、「3 事業譲渡の手続」(第3回法律コラム)記載の手続を経ることが必要とされており、若干手続は複雑です。
⑤ 直接株主に事業譲渡代金が払われる訳ではない
事業譲渡代金は譲渡会社に入りますので、株主に事業譲渡代金を回すためには配当等の手続が必要となります。
⑥ 窮境状態での事業譲渡の場合、事業譲渡代金の使途は限定される
上記のとおり、株主に事業譲渡代金を回すためには、配当等の手続が必要となりますが、窮境状態の場合は、株主への配当よりも前に、債権者への支払を行う必要があり、事業譲渡代金を自由に使える訳ではありません(譲渡会社の清算のための費用であれば事業譲渡代金を使用することも可。ただし、その内容・金額については、専門家の意見を踏まえ、適正な範囲に収める必要があります。)。
⑦ 窮境状態での事業譲渡の場合、譲渡会社の処理を決める必要がある
また、事業譲渡代金をもってしても、債権者への支払に不足が生じる場合は、譲渡会社の債務整理、法的整理が必要となりますので、その点を含めたスキームを考える必要があります。
⑧ 窮境状態での事業譲渡の場合、事業譲渡代金は適正な価格以上でないといけない
このほか、窮境状態での事業譲渡の場合、詐害的な事業譲渡とならないよう、事業譲渡代金は適正な価格以上である必要があります。

第5回法律コラム【事業譲渡スキームについて(下)】に続く