第4回会計税務コラム 【~売り手サイドの心構え3/3~】 公認会計士 水谷是繁
2017年8月15日
第4回会計税務コラム 【~売り手サイドの心構え3/3~】 公認会計士 水谷是繁
前回までコラムでより良い条件で売却するための工夫についてお話をしました。
今回は『売り手サイドの心構え』最終回として「売却するという意思決定についてより深く検討しておくこと」の重要性についてお話ししたいと思います。
会社や店舗の譲渡は売り手経営者にとって非常に大きな判断ですので、何となくの思い付きではなく、譲渡するということについてしっかりと深く考えておくことが重要です。このことは、良い買い手に売却するんだというブレない思いを醸成し、ひいては新しい経営者の下で働くこととなるスタッフのモチベーションの維持・向上や良い買い手を呼び寄せることに繋がります。
以下、いくつかの切り口で私がこれまで出会った経営者の方の主だった考えを羅列してみますので、事業の売却を検討されている皆様はこれらを参考にして頂いてそれぞれの回答を考えてみてください。
1.どのような買い手に売却したいかを考える
「高く買い取ってもらえれば誰でもいい」
「従業員の雇用を守ってくれる企業に譲渡したい」
「提供するフード・ドリンクやサービスを維持・向上させるノウハウのある事業者に譲渡したい」
「店舗の可能性を引き出して有名店に育ててほしい」
「店舗の事業性を加速させて、成長・拡大させてくれる企業に譲渡したい」
「自分が店舗経営にかけてきた思いを共感してもらえる経営者に譲渡したい」
2.なぜ売却するのかをもう一度考える
「体力的な限界」
「財務的に立て直しを図らなければ事業継続が難しい」
「回収資金を別の事業に振り向けたい」
「早期引退で自由な生活がしたい」
「環境的にこのまま店舗を経営していくのが難しい」
「自分の力では限界があるが、店舗のポテンシャルを引き上げてほしい」
「他に手掛けている事業が手いっぱいで、店舗経営に注力できない」
3.売却後の身の振り方を考える
「売却後も引継ぎなどでスムーズに店舗が運営できるように手伝ってもよい」
「できれば雇われ店長として店舗に残りたい」
「売却した瞬間から一切店舗にタッチしたくない」
「期間が明確であれば売却後もノウハウ提供などでサポートしても構わない」
「創業者としてのポジションを維持したい」
M&Aを進めていくと、買手候補の選定や売却金額の交渉、売却時の条件交渉など、判断しなければならない事が山のように出てきます。
こうした多くの意思決定事項を判断するためには、まず上記1.~3.に掲げたような売却する目的を明確化しておくことが不可欠です。
M&Aでは買手やアドバイザーなど多くの関係者を巻き込んで話が進行していきますが、中には売却目的が明確にできていないがために判断が定まらず、結果として全員が振り回されただけという事案も見受けられます。
細かい条件は専門家に相談するなりして対応すればよいと思いますが、経営者として事業を手放す最後のボタンを後悔しないで押すために、売却に対する根本的な思い、もっと言えば自身の人生における店舗売却の位置付けをもう一度しっかりと考えておくべきではないでしょうか。