第0回会計税務コラム【~はじめに~】公認会計士 水谷是繁
2017年5月02日
第0回会計税務コラム
【~はじめに~】
公認会計士 水谷是繁
企業や事業の買収にあたっては、いうまでもなくその買収によって将来の利益が増加するのかが最も大きな命題です。
この命題を考えるうえで、平たく言えば「買収した後に大きな爆弾が見つかるリスクはないか?」「いくらで取得すればペイするか?」という点を抑えなければなりません。
前者の課題を解決するための方法が『デューデリジェンス』(以下、DDと略します。)であり、後者の課題を解決するための方法が『事業価値算定』(例えば、取引として株式譲渡という手段をとるのであれば「株価算定」という用語に置き換わります。)ということになります。
従って、M&Aにおいてはこの2つの作業が必須です。
①「この会社、店舗の決算書って信用できる?」・・・【財務DD】
②「この金額で買って本当にペイできる?」・・・【事業価値算定】
DDや事業価値算定の具体的な業務は公認会計士や弁護士などの専門家に依頼する仕事ではありますが、買い手にとっては買収対象の数字のどのあたりに注意すべきか、どのあたりにリスクが潜んでいるのかを自身でイメージしておくことは非常に重要です。公認会計士は会計や監査の専門家ではありますが、(特に同業他社の買収の場合)ビジネス自体は買手の方が精通しているケースが多いというのも事実です。
実務上も、我々公認会計士の方から買手の方に対して「売掛金の回収サイトについて業界特有の慣習があるか?」「在庫の評価について、商品サイクルや適正在庫の考え方に特徴があるか?」「標準的な原価率はどの程度か?」など、事前にお伺いすることも多いです。(裏を返せばこの辺りを適切に聞いてくる会計士かというのも、DD業務に精通している会計士か否かをご判断いただく材料になろうかと思います。)
また、M&Aに慣れた買い手企業の担当者様は、「対象会社の在庫の評価や引当金の未計上を重点的に確認してください」とか「売り手企業の損益計算書の数字に違和感があるので、正常収益力の評価も重点的にお願いします」といった依頼の仕方をされることも多くあります。
もちろん我々専門家としては、具体的に言われなくても一定の水準の報告ができるように調査を実施していきます。しかしながら、これからお伝えする『DD』や『事業価値算定』の概要及び実務上のポイントを知ることによって、より適切な評価・査定ができることになりますし、例えば「今回は正常収益力についてはざっと見てもらえればよいので、資産・負債の評価に注力してください」といったオーダーの仕方によってDDの見積もり交渉に当たっても予算の制約がある中で適切にご対応いただくことができてくるかと思います。
これから複数回にわたって本コラムの中でこの『DD』及び『事業価値算定』について述べていきたいと思いますが、M&Aの過程で出てくるこうした業務への理解がM&Aの成功に直結するということを心得ていただき、本コラムにお付き合いいただければ幸いです。